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主に創作で活動しています。創作っ子の設定置いたり、拙いお話を書いたりetc

愛は刹那

唐突に届いた一通の手紙

手紙は簡潔だったけど、理解するには充分すぎる内容だった


*


あのときから私は眠れなくなった。

否、眠りたくなくなった、という方が正しいに違いない

自分でも日に日に窶れていくのが分かって、そろそろ寝ないといけないとは思った。睡眠薬だって服用した

なのに夢に出てくるのは元気な姿の彼女で、もしかしたらあまりにも突然な別れに神様が哀れんで夢を見せてくれるのかもしれないとさえ思った

でも神様の采配は私を苦しめるだけだった

夢を見た後、もしかしたら彼女が帰ってきたのかもしれないと何度心の底から願ったことか

どんなに彼女を夢見たってあの日々は戻らない。目が覚めたら彼女はいないのだから

明日の生を保証されている人間なんて誰ひとりとして存在しない

私たちのような軍人でなくったって、もしかしたら病気、はたまた事故で命を落としてしまうかもしれない

いつか死んでしまうのは生き物である定めであり、摂理であるはず。私だって彼女だって、遅かれ早かれいつか死んでしまうのだ。彼女がたまたまそのときが早かっただけのこと

…そうだと分かっているのに、分かっているはずなのに

「そそぎの、ばか、」

口から出たのは、望んでもいない最初で最後の彼女を罵倒する言葉だった


*


気がつけばそれなりの年月が過ぎていて、いつの間にか勝手に結婚することが決まっていた

それでもいいかな、なんて思えた自分が嫌だった

鏡に映っていたのは美しく着飾られた自分

純白のドレスを纏っていて、まるで自分じゃないみたい、なんてありがちなことを思ってしまった

そうこうしていると個室のドアをノックする音がして、「どうぞ、お入りください」と言うと

"ご新婦様の知り合いを名乗る男性からお手紙です"

そうプランナーさんから告げられ、差し出し不明の手紙を手渡された

どのような男性だったのか特徴を尋ねると、目の下に黒子があったとだけ言って去っていった

手紙だけではなく、なにか固形物も同封してあるみたいだ

手紙といえば、なんとなくだけどあの手紙持って来ちゃったんだっけ、とふと思いだした

先程届けられた手紙の封筒を開けると入っていたのは1枚の紙。不思議に思い、開いてみるとそれは処方箋

誰かのイタズラかなと思い、捨てようか悩んでいると隅になにやら書かれていることに気づく


  神城唯亜様
 もしあなたが、忘れられないのなら


いつもの私ならますます気味悪がって捨てていたかもしれない

でも何故か、胸騒ぎがした、

慌てて同封されていた固形物を取り出す

 ー錠剤…??

そこから何を思ったのか、私は思わず持ってきてしまったあの手紙を開いた

彼女が私に宛てた、悲しく辛い最後の手紙

何度も何度も読み返して、擦り切れるまで読んだあの手紙をもう一度、1文字ずつ目で追っていく


 生きて、幸せになってください


ぽたり、ぽたりと涙が落ちて染みをつくっていく

やっと錠剤の意味が分かった

 ー彼のそういった計らい、嫌いじゃありませんわ

彼女がいない空虚な世界で幸せになんてなれるわけないじゃないか

きっとこの薬を飲めば、昔も今も見る夢から開放されるはずだ

かわいくて優しくて、頼りになる大好きな大好きな、愛している彼女とまた、幸せな日々を送れるはずだ

睡眠薬を日常的に飲むように、慣れた手つきで飲み込んだ


 ーやっと、安らかに眠ることができるー



*



あの神城家の娘が結婚直前に死んだというニュースは瞬く間に世を駆け巡った

日本でも有数の大企業の息子と結婚する予定だったということもあり、マスコミには大々的に取り上げられた

しかしゴジップ好きな人々が注目したのはそこではない

プランナーの女性が渡したはずの手紙がどこにも見当たらなかったこと、彼女の死因、そして彼女が大切そうに抱えていた遺書と思われる一通の手紙だった



死因は睡眠薬の服用によるものだと、言わざるを得なかった